木下 恭子
黒人文学といえば、どんなイメージがわくでしょうか? みなさんの中には、イ メージとして、「暗い」というものが強くあるのではないかと思います。そのため にあまり読む気がしない、という人も多いことでしょう。
エリソン (Ralph Ellison) の作品『見えない人間』 (Invisible Man, 1952) には、 いわば暗い面と明るい面のどちらもがあり、それらの入れ替わりの変化が独特の味 わいを出しています。それは決して難解なものではなく、リズミカルな本文を読め ば、その暗いようで明るい語りの調子に心を動かされるでしょう。エリソンのリズ ミカルな文体は、彼が作曲家になる目的で大学で音楽を専攻した経歴によるものです。
他大学の会報を見たら、『見えない人間』を卒論に選んでいる人が定期的にいま した。それはたぶん、いまだに多くの大学生たちが社会を出る前に不安や恐れをい だき、そんな自分の姿とこの作品の主人公のアイデンティティを再発見しようとす る姿をかさね合わせている証拠だと思えるのです。
大学生の時に授業で『見えない人間』と出会い、大学院の学生となってふたたび 読み直すことで、自他を見る目をもった主人公の鋭い感性に親しみをもつことがで きました。 (大学院博士課程学生)