現代大学生気質異論

横山 弘子



この4月から、非常勤講師としてA大学の2クラスで英語を教えている。こんな機会にめぐまれたことを幸運と感じながらも、不安もあった。世間でよくいわれている「今時の大学生は……」という批判が私の耳に入っていたからである。講義中の私語が多く、それも学生が近くに座っている者と話すだけでなく、今では携帯電話で教室という空間を超えて話し合っているという。そういうことで、私はある種の先入観を持っていた。

講義第1日、教室へ入った。座席にてんでばらばらに座っている学生の格好に度胆をぬかれた。髪の毛の色は金・茶・灰色・黒・三毛猫?とさまざまである。超長髪も数人いる。スタイルも…。その瞬間、中学教師時代のいわゆるつっぱりのことが頭をめぐった。「これは大変なことになった。こんなに大勢のつっぱりを相手に、一体全体英語の授業が成り立つのかな」と冷や汗が出てきた。恐怖の一瞬であった。

それでも心を少しは静め、彼らに学籍番号順に席に座るよう指示した。意外にも静かにさっと席を移動した。まず自己紹介をした。学生の目を見ながら話をすると、私を見返す彼らの目の中に何か通じるものが感じられる。私は本当に嬉しかった。恐怖は一転して喜びに変わった。「これはいける」という手がかりを得た。

その後私は一方のクラスではテープを使ったリスニング訓練、他方のクラスでは読みとりをごく普通に行ってきた。彼らの中には確かに寝ている者もいる。「夜遅くまで…の勉強をしていたので。どうもすんません。」と、あとで謝りにくるのがかわいい。しかし大部分の者は静かにまじめに聞いている。

私は中学校教員時代には英語嫌いの多くの生徒を前に、文法事項の導入など自分なりに面白くわかりやすい授業をするために、悪戦苦闘したことを思いだした。「この学生たちは本当にあの中学生たちが成長した姿なのだろうか」と、信じられないような気がしてきた。

4週間でOscar WildeのSelfish Giantを読み終えたのを機会に、感想を書いてもらった。その感想文を読んで、ますます自分の大学生観が変わってきた。世間でいわれているほど彼らは没個性的ではない。また西欧のキリスト教文化を読み取っている。学生め感想文(部分)をいくつか引用しておこう。

* 理系なので普段公式のオンパレードなので何か私には新鮮でした。この文は巨人の心の動きが気になった。たぶん庭=巨人の心なんだろなあ!巨人のくもった心が子供達によって愛のある心に変化していったんだと思う。
* 巨人が悪人でなくなったことを簡単に受け入れた子どもたちの純粋さ、素直さを見習いたい。
* 冷たい心をとかされ、やさしくなった巨人が年老い、最後に会いたくてしかたなかった少年が実は神(おそらくイエス=キリスト)であり…。
* 今までの英文よりわりと簡単に読めたので、文の内容にぞくっと感動できました。童話もじっくり読めば、奥が深いと思いました。おもしろかったです。

成長するとはこういうことだったのかと思った。週に1回のみの講義だけれども、大学生に英語を教えるのが今や生きがいの一つになってきている。

(愛知工業大学非常勤講師)


The Chukyo University Society of English Language and Literature
Last modified: Thu Apr 30, 1998

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