日本のHM/HR

角本 祐司(文学部英文学科卒業生)



エジソンがフォノグラムを企明したのが1877年のこと。それからおよそ100年にわたるレコードの歴史上の中で音楽業界はめざましい発展をとげてきた。そしてロックが誕生したのが1950年代半ば。このロックの誕生によって音楽業界の発展にはさらに拍車がかけられた。1993年の時点で世界のレコード売上は約305億ドルにのぼる。日本円にしてざっと3兆円である。ここでいうレコードとは、CDはもちろん、カセットやアナログディスクをも含んでいる。

世界最大のレコード市場はい言うまでもなくアメリカで、そのシェアは全世界の32.3%を占める。次いで16.7%のシェアを持つ日本は世界第2位のレコード市場である。以下、8.8%のドイツ、6.5%のイギリス、6.1%のフランス、2.9%のカナダ、2.0%のオランダという順になる。

アメリカのレコード出荷額は1994年に1l8億3700万ドルと初めて百億ドルを超えた。1億ドル台に来ったのがl945年、10億ドル台に乗ったのがl967年だから、ロック誕生以前には考えられなかった数字と言える。ちなみに日本のレコード生産についていえば、1994年の生産金額は前年比1%増の5192億円(約52億ドル)である。

その音楽業界の中で基幹をなすのは言うまでもなくロックであるといえるが、今回ここで取り上げるのはそのロックの中でもヘヴィ・メタル/ハード・ロック(以下HM/HR)である。HM/HRにおいてもレコード売上に関しては上記のようにアメリカ、日本、そしてヨーロッパの数カ国が主要な市場となっている。特に日本は、アーティスト側から見れば極めて重要な市場であると言える。自国では見向きもされないアーティストが日本ではかなりの知名度がある、という現象も珍しいことではない。

Deep Purple

といえばHM/HRの愛好者ならずとも、その名前くらいは聞いたことのあるであろうスーパーグループである。そして日本のHM/HRの愛好者であれば、その Deep Purple

のギタリストであった(まさか、これが出るころにはまたまた再入荷しているなんてことはないだろうな……)リッチー・ブラックモアのバンド Rainbow

は当然と言って良いぐらい知っている。しかし、これは筆者自身が経験して驚いたことであるが、あるアメリカ人と話をしたとき、彼は当然 Deep Purple

を知っていた。しかし話がリッチー・ブラックモアと Rainbow

におよぶと、なんと彼は知らないというではないか(Stryperは知っていたくせに……)。これがアメリカ人全ての認識であるとは思わないが、リッチーにしてこの程度の認識であるならジョン・サイクスやイングヴェイ・マルムスティーンに対するする扱いにも納得がいくと同時に、日本のHM/HR愛好者の質の高さを思い知らされた。日本のHM/HR愛好者が他ジャンルのファンに比べ多少熱狂的であり、またアーティストに対する強い忠誠心をもっていることは、確かに白認するところである。(これがヘビメタなんていう差別的な言葉を生んでしまった原因かもしれない。しかしその高い質を誇る日本のHM/HR愛好者にして反省すべき点はある。その第1に挙げられるのが、国内アーティストに対するフォローの姿勢である。日本のHM/HR愛好者によく見られる傾向であるが、そのほとんどが、筆者自身を含め欧米至上主義なのである。ひらたく言えば、海外のものは聴くが、国内のものはほとんど見向きもしない、ということである。これに対して「良いものだから聴くんであって、日本のバンドがそれまでの実力を持ち合わせていない」と反論される方もあろう。しかし、リスナーの支持なくしては実力を発揮する場も与えられないのが現状である。それも当然である。レコード会社も商売なのだ。需要のないものにそうそう投資できるはずもないのである。

しかし、その国内HM/HRの世界も着実に転換期を迎えている。ここしばらくの間にいくつかのバンドがデビューの機会を得ているのである。その内のひとつにHiddenというバンドがある。このバンドのヴォーカリストは、中京人学英文学科卒の丹羽英彰さんという方である。この丹羽さんの作詞した歌詞が『会報』のバックナンバー(第5号)掲載されているので興味をもたれた方は是非そちらを参照されたい。研究棟2階の英文学会室に在庫があるので、そちらの方に行っていただければ、そこにいる誰かが快く対応してくれるだろう、多分。話を

Hidden

に戻すと、本当なら昨年のl1月にはテイチクレコードよりメジャーデビュー作となるミニアルバムが発売されるはずであったが延期となり、今年の春頃に発売されるという。ひょっとするともう発売になっているかもしれない。収録曲は、 Hidden

が以前作ったデモテープ『ENBALM』の収録曲を新しく録音し直したものだと聞いているが、そのデモテープを聞いた限りでは、かなりの期待がもてる。是非日本のHM/HRの状況を一変させるような存在となってもらいたい。

今はまだHM/HRは一部を除いて、日本ではそれほどの市民権を得てはいない。それは認めよう。しかしHM/HRが日本の音楽業界リードする日は必ずやってくる。それは過去のバンドブームのような一時的なものではなく、そして、それは決して遠い未来のことではない。


The Chukyo University Society of English Language and Literature
Last modified: Thu Apr 30, 1998

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